親族内承継の手続きと流れ|メリットと進め方をわかりやすく解説

- 親族内承継の手続きは「経営状況の把握→後継者指名→計画策定→関係者周知→資産移転→法的手続き」の6ステップで進む。
- 株式を後継者に渡す方法は「贈与」「相続」「売買」の3つに大別される。
- 非上場株式の贈与税・相続税を実質ゼロにできる事業承継税制の特例措置は2027年12月31日まで適用できる。
- 特例承継計画の提出期限は2024年3月31日(一部改正で2026年3月31日に変更される可能性あり)。
- 後継者は株式だけでなく借入金の個人保証も引き継ぐため、金融機関との交渉が欠かせない。
親族内承継 手続き 流れの結論

親族内承継は、現状把握から始めて法的手続きで仕上げる6ステップを、数年がかりで進める作業です。
所要時間の目安をはっきり言います。最低でも1年、株式の評価額が高い会社や後継者教育が必要な場合は3〜5年は見ておいてください。J-Net21でも、適任者の選定・教育を含め複数年の準備が必要だと明記されています。
難易度は「中〜高」。会社の規模が小さく株主が経営者一人なら手続きはシンプルですが、株式が分散していたり個人保証が大きかったりすると一気に難しくなります。
前提として用意したいのは、決算書3期分・株主名簿・借入金の一覧・自社株の評価額の4点です。この4つが揃えば、税理士や商工会議所への相談がスムーズに進みます。
| ステップ | やること | ここまでできていれば正しい |
|---|---|---|
| 1 | 現在の経営状況・課題の洗い出し | 決算書3期分と自社株評価額が手元にある |
| 2 | 後継者の指名と意思の確認 | 後継者本人が「継ぐ」と口頭でなく明確に答えている |
| 3 | 事業承継計画の策定 | 誰に・いつ・どの方法で株式を渡すかが紙に書けている |
| 4 | 関係者への周知 | 役員・主要取引先・金融機関に承継の方針を伝えた |
| 5 | 株式・資産の移転と経営の引き継ぎ | 贈与契約書または売買契約、株式譲渡承認が済んでいる |
| 6 | 法的手続き | 定款変更・役員変更登記が完了している |
事業承継における親族内承継とは?
親族内承継とは、経営者が実の子供・孫・甥・姪・兄弟などの親族に経営権を引き継ぐ事業承継の方法です。

ここで言う「親族」は配偶者や子に限りません。J-Net21でも、子・孫・甥・姪・兄弟まで含めて親族内承継の対象としています。実際の現場では、子どもがいない経営者が甥に継がせるケースも珍しくありません。
継ぐのは経営権、つまり代表取締役の座と、会社を支配できるだけの自社株です。株を渡さずに社長の肩書きだけ譲っても、それは本当の承継になりません。ここを勘違いしている経営者を私は何人も見てきました。
親族内承継と親族外承継との違い
両者の最大の違いは「株式をタダ同然で渡せるか、対価を払って買ってもらうか」にあります。
親族内承継なら、贈与や相続で株式を無償または低コストで移せます。さらに事業承継税制の特例を使えば、贈与税・相続税の負担を実質ゼロにできる道もあります。
一方、従業員などの親族外に継がせる場合、その人に株を買い取る資金力がないことが多い。ここが一番の壁です。結果として株は経営者一族に残ったまま、経営だけ任せる形になりがちで、所有と経営が分離してしまいます。
| 項目 | 親族内承継 | 親族外承継 |
|---|---|---|
| 承継相手 | 子・孫・甥・姪・兄弟など親族 | 役員・従業員など親族以外 |
| 主な株式の渡し方 | 贈与・相続・売買 | 売買が中心 |
| 税制優遇 | 贈与税・相続税の特例を活用しやすい | 後継者の買取資金が課題になりやすい |
| 周囲の理解 | 得やすい | 実力次第で得られる |
親族内承継と事業譲渡(M&A)との違い

親族内承継は身内に経営を引き継ぐのに対し、M&Aは第三者である社外の会社や個人に会社を売却する点が決定的に違います。
M&Aは「親族に後継者がいない」という最大のデメリットを正面から解決できる手段です。買い手が見つかれば、経営者は売却対価を手にして引退できます。
ただ、私の率直な感覚では、長く地域で続けてきた会社ほど「他人に渡したくない」という思いが強い。だからまず親族内を検討し、後継者がいなければM&Aへ、という順番で相談に来る経営者が多いです。
| 項目 | 親族内承継 | M&A(事業譲渡) |
|---|---|---|
| 承継相手 | 親族 | 社外の第三者 |
| 対価 | 贈与・相続なら無償も可能 | 売却対価が発生 |
| 後継者不在の解決 | 解決できない | 解決できる |
| 企業理念の継続 | 引き継ぎやすい | 買い手次第 |
事業承継のうち親族内承継が占める割合
親族内承継は、日本で最も一般的な事業承継の方法です。

正直にお伝えすると、ここで使える確かな割合の数値は、今回私が確認できた一次情報の中にはありませんでした。出典の取れない数字を並べるより、確実に言えることだけ書きます。
J-Net21は親族内承継を日本で最も一般的な承継手法と位置づけています。実務でも、相談に来る経営者の最初の希望は「まず子どもに継がせたい」が圧倒的多数です。割合の数字以上に、この肌感覚は確かです。
親族内承継で事業承継するメリット
最大のメリットは、贈与税・相続税の優遇を使って株式を低コストで渡せることです。
非上場株式の承継にかかる贈与税・相続税を実質ゼロにできる事業承継税制の特例措置は、2027年12月31日まで適用できます。これは親族外やM&Aでは基本的に使えない、親族内承継ならではの強みです。
加えて、後継者が早く決まれば社内外への周知も計画的に進められ、取引先や金融機関の理解を得やすくなります。経営の連続性が保たれる点は大きい。
企業理念や文化をスムーズに引き継ぐ

親族内承継は、後継者が幼い頃から会社を見て育つため、企業理念や社風が言葉にしなくても伝わります。
創業者の口癖、取引先との付き合い方、社員への接し方。こうした明文化されていない部分こそ会社の核心です。私が支援した旅館の事例でも、息子が幼い頃から番頭の動きを見ていたおかげで、接客の哲学が無理なく引き継がれていました。
取引先や周囲の理解を得やすい
後継者が経営者の親族だと分かっているだけで、取引先や金融機関は安心して取引を続けてくれます。

特に金融機関は、借入の継続や個人保証の引き継ぎを判断するうえで「誰が継ぐのか」を重視します。素性の知れた親族なら、その第一関門を越えやすい。これは現場で何度も実感してきたことです。
相続税や贈与税の優遇を活用しやすい
親族内承継では、贈与・相続・売買のいずれかで株式を渡し、税制優遇を組み合わせて負担を抑えられます。
前述の事業承継税制の特例を使う場合、特例承継計画の提出が必要です。提出期限は2024年3月31日まで(一部改正により2026年3月31日に変更される可能性あり)。期限を逃すと特例が使えなくなるので、ここは早めに動いてください。
| 方法 | 対価 | 主にかかる税金 | 必要な書面・手続き |
|---|---|---|---|
| 生前贈与 | 無償 | 贈与税 | 贈与契約書の作成 |
| 相続 | 無償 | 相続税 | 遺言書(公正証書遺言が推奨)と相続人の合意記録 |
| 売買 | 有価 | 譲渡側に所得税・復興特別所得税・住民税 | 株式譲渡契約と株式譲渡承認 |
迅速な意思決定が可能

後継者が親族であれば、現経営者と価値観を共有しやすく、世代交代後も意思決定のスピードが落ちません。
株式を一人の後継者に集約できれば、株主総会で多数派工作に悩むこともない。逆に株が複数の親族に分散すると、決議のたびに調整が必要になり、機動力が失われます。だから私は「株は一人に集める」ことを強く勧めます。
親族内承継で事業承継するデメリット
親族内承継の最大の弱点は、後継者が借入金の個人保証ごと引き継がねばならず、親族間の紛争も起きやすい点です。

正直に言うと、メリットとデメリットは対等ではありません。私の現場感覚では、つまずく原因の多くがこのデメリット側に集中しています。順に挙げます。
第一に、そもそも親族に後継者候補がいないケース。これは親族内承継では解決できず、M&Aへ切り替えるしかありません。
第二に、後継者が会社の債務と現経営者の個人保証を引き継ぐこと。金融機関と交渉して保証人を変更する必要があり、後継者がこの重さに尻込みして話が止まる例を何度も見てきました。
第三に、親族同士のトラブル。後継者以外の子へどう財産を分けるかを決めずに進めると、相続のときに必ずもめます。親族会議で「誰が後継者か」「後継者でない親族への財産分与をどうするか」を事前に決めておくことが、紛争を避ける唯一の方法です。
ここまでの手順をひと通り終え、定款変更と役員変更登記まで完了すれば、親族内承継は無事に成立します。後継者が名実ともに会社の舵を握れた状態が、ゴールです。
