継承とは?承継との違いと事業承継の手法・費用・流れを解説

結論から言うと、言葉としては「継承」も「承継」も使えますが、事業を引き継ぐ法律・税務の場面では「事業承継」が正しい表記です。
この記事では、言葉の意味の違いから、引き継ぐ3つの要素、手法の比較、費用と税金、失敗を防ぐコツまで一気に整理します。私が現場で見てきた実例も交えて書きます。
書いているのは、中小企業診断士として事業承継支援に12年携わってきた三村です。商工会議所の相談員として、いまも経営者の相談に乗っています。
継承とは?意味・読み方をわかりやすく解説

まず言葉の整理から。ここを曖昧にしたまま進むと、書類の表記でつまずきます。
継承の意味と読み方
「継承」は「けいしょう」と読みます。地位・財産・権利・伝統などを受け継ぐこと、という意味です。
日常では「王位を継承する」「伝統を継承する」のように、精神的・文化的なものを受け継ぐニュアンスで使われます。
承継との違いと使い分け
「承継」は「しょうけい」と読みます。前の人の地位・事業・権利義務を受け継ぐこと。法律用語としてよく使われるのが特徴です。
ざっくり言うと、文化や精神は「継承」、権利義務や法律行為は「承継」。例文で見ると分かりやすいです。
| 語 | 読み | 主に使う場面 | 例文 |
|---|---|---|---|
| 継承 | けいしょう | 文化・伝統・精神 | 技を後世に継承する |
| 承継 | しょうけい | 法律・事業・権利義務 | 会社の権利義務を承継する |
「事業継承」と「事業承継」どちらが正しい?
正解は「事業承継」です。国の制度名も中小企業庁の案内も、すべて「事業承継」で統一されています。
中小企業庁は法律(円滑化法)に基づく支援を「事業承継」として案内しています。書類や申請では必ずこちらを使ってください。
正直、「事業継承」と書く人はとても多いです。会話では通じますが、補助金や税制の申請では表記がそろっていないと差し戻されることもあります。
事業承継で引き継ぐ3つの要素
事業承継は「会社のハンコを渡して終わり」ではありません。引き継ぐものは大きく3つ。人・資産・知的資産です。

中小企業庁もこの3要素で整理しています。どれか1つでも欠けると、承継後に経営が傾きます。
人(経営)の承継
経営権、つまり「誰が会社を率いるか」の引き継ぎです。後継者を決め、育て、社内外に認めてもらう。
私の実感では、ここが一番時間がかかります。後継者教育には数年単位が必要です。
資産の承継
自社株式、事業用の不動産や設備、運転資金などの引き継ぎです。
特に自社株。中小企業はオーナーが株を持っていることが多く、ここに相続税・贈与税がのしかかります。費用と税金の章で詳しく扱います。
知的資産(ノウハウ・無形資産)の承継
取引先との信頼関係、技術、ブランド、許認可、従業員の士気。帳簿に載らない「見えない資産」です。
見落とされがちですが、実は会社の稼ぐ力の源泉。先代の頭の中にしかない取引のコツを、どう言語化して渡すかが勝負です。
私が支援した町工場では、先代の「得意先ごとの納期の癖」をノートにまとめるだけで、引き継ぎ後のトラブルが激減しました。
事業承継の3つの手法を比較
誰に引き継ぐか。選択肢は親族内・従業員・第三者(M&A)の3つです。それぞれ向き不向きがあります。

| 手法 | 主なメリット | 主なデメリット | 向くケース |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 関係者の理解を得やすい/準備期間を取りやすい | 後継者の資質に左右される/相続トラブルの火種 | 子に継ぐ意思がある |
| 従業員承継 | 事業をよく知る人が継ぐ/取引先が安心 | 株式取得の資金調達が難しい/個人保証の壁 | 右腕がいる |
| 第三者承継(M&A) | 後継者不在でも会社が残る/創業者利益を得られる | 相手探しに時間/条件交渉が難航 | 親族・社内に後継者なし |
親族内承継のメリット・デメリット
子や親族に継ぐ、昔ながらの形。社内外の納得を得やすく、準備期間も確保しやすいのが強みです。
ただし「継ぐ意思」と「経営の資質」は別物。継がせたい親と継ぎたくない子、という相談は本当に多いです。早めの対話が要ります。
従業員承継のメリット・デメリット
長年勤めた役員や従業員に引き継ぐ形。事業を熟知しているので、現場の混乱は少なめです。
最大の壁は資金。自社株を買い取る原資を、従業員が用意できないケースが多い。ここは正直、デメリットの比重が大きいです。持株会社や金融機関の融資で組み立てます。
第三者承継(M&A)のメリット・デメリット
社外の会社や個人に売却・譲渡する形。後継者がいなくても会社と雇用が残ります。
創業者が対価を得られる点は大きい。一方で相手探しと条件交渉に時間がかかり、従業員への説明も慎重さが要ります。
後継者がいない場合の選択肢
「継ぐ人がいない」。これが今、地方で一番多い悩みです。選択肢は3つあります。
M&Aによる第三者承継、近年広がるサーチファンド(経営者候補が資金を集めて会社を買う仕組み)、そして廃業。
私の立場を言えば、まずは廃業の前に一度、公的な引継ぎ支援センターへ相談してほしい。買い手が見つかる会社は想像以上にあります。
事業承継の流れとスケジュール

事業承継は思い立って数か月でできるものではありません。後継者教育まで含めれば5年以上かかることもざらです。
中小企業庁は早期着手を促しており、流れは大きく「認識→見える化→磨き上げ→計画→実行」と整理できます。
準備の必要性を認識し着手する
最初の壁は「まだ早い」という思い込みです。経営者が60歳を迎える頃には、準備を始めてちょうどいい。
健康なうちに動くこと。倒れてから慌てて相続、というのが最悪のパターンです。
経営状態の見える化と磨き上げ
自社の財務、資産、強み弱みを棚卸しする。これが「見える化」です。
そのうえで、不採算事業の整理や利益率の改善で会社の価値を高める。これが「磨き上げ」。買い手にも後継者にも、魅力ある会社にしておく作業です。
事業承継計画の策定と後継者教育
親族内・従業員承継なら、いつ・何を・誰に引き継ぐかを年表にした事業承継計画を作ります。
後継者教育は社内の各部署を経験させ、外部の研修や他社勤務も組み合わせる。一朝一夕では育ちません。
承継後の経営統合と引き継ぎ実務
バトンを渡したら終わり、ではない。承継後の統合(PMI)が肝心です。
取引先への挨拶回り、従業員との面談、デジタルデータやノウハウの引き継ぎ。先代がしばらく伴走する体制を組むと、現場が安定します。
事業承継にかかる費用と税金
ここが一番の不安どころでしょう。費用は手法で大きく変わります。

特に重いのが自社株にかかる相続税・贈与税。会社が儲かっているほど株価が高く、税負担も増えるという厄介な構造です。
相続税・贈与税と自社株評価の考え方
親族内承継で株を渡すと、贈与なら贈与税、相続なら相続税がかかります。
自社株の評価額は会社の利益・純資産・配当などから計算されます。業績が良いと評価額が跳ね上がる。だから利益が出すぎる前に対策を、と私は早めの相談を勧めています。
対策の選択肢には、種類株式や持株会社、信託の活用があります。どれも専門家と組まないと組めない手法です。
M&A仲介手数料や専門家報酬の目安
M&Aを使う場合、仲介会社への手数料がかかります。料金体系は会社ごとに差が大きく、ここで断定的な金額は出しません。
私が経営者に必ず伝えるのは「契約前に手数料の計算方法と最低報酬額を書面で確認すること」。後から想定外の請求で揉める例を何度も見てきました。
事業承継税制(納税猶予制度)の活用
自社株の税負担を大きく軽くできるのが、事業承継税制です。
これは円滑化法に基づく制度で、後継者が取得した一定の資産について、贈与税・相続税の納税猶予や免除を受けられます。
法人版の特例措置では、贈与で取得した株式等にかかる贈与税の100%が猶予されます。非上場株式の相続税・贈与税の納税が猶予・免除される仕組みです。
ただし期限があります。特例措置を使うには特例承継計画の提出が必要で、提出期限は2027年9月30日まで。
対象は2018年1月1日から2027年12月31日までに贈与または相続で会社株式を取得した経営者です。特例措置は10年間限定の制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 非上場株式に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除 |
| 贈与税の猶予割合 | 100% |
| 特例承継計画の提出期限 | 2027年9月30日まで |
| 株式取得の対象期間 | 2018年1月1日〜2027年12月31日 |
| 特例措置の期間 | 10年間限定 |
特例承継計画には、後継者の氏名、事業承継の予定時期、承継時までの経営見通し、承継後5年間の事業計画などを記載します。
雇用確保要件も特例措置で緩和されています。一般措置は承継後5年平均で80%以上の雇用維持が必要ですが、特例措置では80%を維持できなくても理由を都道府県へ報告すれば猶予が続きます。
率直に言うと、この制度は猶予を「打ち切られない」ための要件管理が大変です。使うと決めたら、税理士と二人三脚で進めてください。
失敗しないための注意点と対策
承継のトラブルは、お金より「人の感情」から起きることが多い。私の実感です。

ここでは現場で繰り返し見てきた3つの注意点をまとめます。
親族の不満と遺留分への対策
後継者に自社株を集中させると、他の相続人が「自分の取り分が少ない」と不満を抱きます。これが遺留分の争いです。
円滑化法には、後継者へ渡した株式を遺留分の計算から除外する「除外合意」、評価額を固定する「固定合意」という民法特例があります。早めに相続人全員と話し合うことが、後の火種を消します。
個人保証・借入の引き継ぎと経営者保証ガイドライン
見落とされがちですが超重要。会社の借入に対する経営者の個人保証も、承継で後継者に引き継がれます。
「会社は継ぎたいが、何千万円もの個人保証は背負えない」。後継者が尻込みする最大の理由がこれです。
対策として経営者保証に関するガイドラインがあります。一定の条件を満たせば、保証を外したり後継者に引き継がせない交渉が金融機関とできます。継ぐ前に必ず確認してください。
情報管理と早期着手の重要性
M&Aや承継の検討が早く社内に漏れると、従業員が不安になり退職、取引先が離れる。情報管理は徹底してください。
そして早期着手。後継者教育に数年、税対策にも数年。60歳から動いてちょうどいいというのは、決して大げさではありません。
事業承継のよくある失敗事例と教訓

ここは私が現場で見聞きした失敗を共有します。教科書には載らない部分です。
同じ轍を踏まないために、3つだけ挙げます。
後継者教育不足によるトラブル
先代が急逝し、準備不足のまま息子が社長に。取引先との関係も財務も把握できておらず、半年で資金繰りが悪化したケースがありました。
教訓は一つ。経営の引き継ぎは「先代が元気なうち」に始める。これに尽きます。
株価高騰で資金繰りに困った例
業績好調を喜んでいたら、自社株の評価額が上がりすぎ、相続時に多額の相続税が発生。納税資金を捻出できず、会社の資産を売る羽目に。
利益が出ている会社ほど、株価対策と事業承継税制の検討を前倒しすべきです。
相談先選びを誤った例
知り合いという理由だけで事業承継に不慣れな専門家に任せ、税制の特例を使い損ねた。後から「使えたのに」と分かるのが一番つらい。
事業承継は税務・法務・金融が絡む総合戦です。各分野に強い専門家を組み合わせてください。
相談先の選び方と公的支援
一人で抱え込まないこと。事業承継は専門家と公的支援をうまく使うのが正解です。

無料で使える公的窓口もあります。まずはそこから入るのを私は勧めています。
弁護士・税理士・M&A仲介の役割分担
それぞれ守備範囲が違います。一覧にしました。
| 相談先 | 主な役割 |
|---|---|
| 税理士 | 自社株評価/相続税・贈与税/事業承継税制の手続き |
| 弁護士 | 遺留分対策/契約書/トラブル予防・対応 |
| M&A仲介・FA | 買い手探し/条件交渉/M&Aの実行支援 |
| 金融機関 | 資金調達/個人保証の交渉/M&Aの紹介 |
| 中小企業診断士 | 経営の見える化・磨き上げ/計画策定の伴走 |
私は診断士として、まず経営の現状整理と計画づくりを担い、税務は税理士、法務は弁護士へつなぐ。一社で全部を抱える時代ではありません。
事業承継・引継ぎ支援センターの活用
各都道府県にある公的な相談窓口が、事業承継・引継ぎ支援センターです。相談は無料で、後継者不在の会社と買い手のマッチングも行っています。
円滑化法に基づく国の支援の一環で、商工会議所も入口として使えます。民間に高い手数料を払う前に、一度のぞいてみてください。
継承についてのよくある質問
よくある質問
最後に一言。事業承継で後悔する人の共通点は「先延ばし」です。今日、自社株の評価額を税理士に聞いてみる。それだけでも立派な第一歩になります。
